茨城県常総市で、独自の鉄工ブランド「十てつ」を展開する古渡 大(ふるわたり だい)さん。彼の創り出す製品は、鉄を用いた家具、照明器具、そして日用品として、その機能美とデザインで多くの注目を集めています。
「十てつ」は、古渡さんが建築学を背景に持ちながらも、手を動かし直接形にする喜びを追求し続けていることから生まれました。
「建築を学びながらも、実際に自分の手で形にすることに魅力を感じ、この道を選びました。」と古渡さんは語ります。鉄工ブランドとして、彼がどのようにして「十てつ」を創業し、その困難とやりがい、そして創造性豊かな生活に至るまでの経緯や、これからの展望について深く掘り下げています。
Profile
古渡 大|Dai Fruwatari
茨城県常総市出身。建築学を学んだ後、建築系メディアサイトでの経験を経て、独自の鉄工ブランド「十てつ」を創業。
鉄を用いた家具、照明器具、日用品を製造・販売し、その機能美とデザインで多くの注目を集めている。
父の倉庫から始まった物作り
古渡さんの創業には、彼の家族の影響が深く関わっています。
「十てつを始めたのは、父が建設現場の鳶職として溶接工だったことが大きく影響しています。倉庫に眠っていた父の鉄工機材を持ち出し、試行錯誤しながら基本的な鉄加工の技術を習得していきました。その技術を用いて、何を作るかを考えたとき、建築を学んでいた経験と、建材検索サイトの運営に携わっていた経緯から、建築業界に携わる形でのものづくりに興味を持ちました。
習得した鉄加工の技術を活用し、建築業界のニーズと自分の興味の範囲が重なる部分を模索しながら、仕組みや製品を開発し、独立に至りました。」


創業から現在まで|挑戦と達成の3年間
創業から3年が経過し、古渡大さんは「十てつ」を通じて多くの挑戦と成長を経験しました。
製作の中心は今でも彼一人で行っているそうですが、製作数や納品数には自然と限界があります。さらに、十てつでは彼自身がデザインした商品以外にも、建築家からの特注製作を行っており、その一部は商品化して販売しています。これには、特別なサイズや加工が必要な場合が多く、必要に応じて他の鉄工所との協力が不可欠です。
「小ロットでも対応してくれる鉄工所を見つけることは一苦労ですが、信頼できるパートナーとの関係を築くことができれば、それが大きな強みになります。」
このような日々の挑戦が彼の創造的な活動に独自の深みを加えています。アイディアを形にする過程で遭遇する数々の課題を乗り越えたとき、大きなやりがいを感じると古渡さんは述べています。
「技術が向上するにつれて、想像した製品が現実のものとして目の前に現れる瞬間は、何ものにも代えがたい喜びです。」

創造性を支える日常の習慣
古渡さんの創作活動には、日常的に欠かせない要素がいくつかあります。
「日々の生活の中で、私にとって欠かせないのは、定期的に何かを自由に作る時間です。計画に縛られずに、思いついたことをすぐに形にする。もしくは、余った材料同士で積み木のように遊んでみる。そうした突発的な創作活動が、予期せぬインスピレーションをもたらし、時には計画的なものづくりでは得られない魅力的な結果を生み出します。そこから新しいアイディアが生まれ、それが次の製品に繋がることも多いです。」
これらの活動を通じて、彼は常に新しいことに挑戦する意欲を保ち続けています。


アトリエとその環境|自然と調和する創作スペース
アトリエづくりにおける古渡さんのアプローチは、機能性と美学が見事に融合したものです。
「アトリエの設計は、計画的ではなく、むしろアドホックなプロセスを経て進めました。」
腰壁は元々板張りでしたが、深いグレーのモルタルに黒浜土と炭を混ぜて仕上げた腰壁に変更されました。この黒浜土は、鉄分を豊富に含むことから鉄との相性が抜群で、鉄作品との一体感が感じられる設計です。
アトリエを開いた当初は十てつの商品を直接購入できるショップとして機能していましたが、製作とお客様の対応を兼ねることの困難さから、現在は半分を開放的なギャラリースペースとして、残り半分は作業に集中できるやや暗めの作業スペースとして区分されています。
「このアトリエの一角には、小上がりが設けられており、天井は吹き抜けになっているため、断面的にも非常に面白い建物です。古い梁や柱が見える内部構造は、その歴史を感じさせます。」
と古渡さんは続けます。
このアトリエは、ただの作業場以上の意味を持ち、彼の創造的なアイデアが形になる場所として、また、ユニークな仲間が集う空間として機能しています。


個々の創造と創作の場
「十てつ」は、LOOP TOWNとよばれる、同じ敷地内で兄が運営する古物店と、母が営むカフェとも密接に連携しています。これらの場所へは、生活に対してこだわりを持つ人々が訪れ、その日々の交流が古渡さんの創作に良い影響を与えています。また、古物店で扱う昔の道具や日用品からは、古い素材の質感や昔ながらの複雑かつ精密な構造がインスピレーションの源となり、彼のものづくりに独特の深みを加えています。この地方特有の自然環境と、場所作りによって引き起こされる人々の往来が交わることで、古渡さんが作り出すプロダクトに独自の価値をもたらしています。
「自然的要因と環境的要因が融合することで形成される、魅力的な創作環境は、「十てつ」のアイデンティティを形成し、私の創作活動にとって欠かせない要素となっています。」


職場としてのアトリエ|スタッフと共に育む創作環境
「十てつ」のアトリエでは現在、アルバイトスタッフが2名働いています。これらのスタッフは、元々カフェや古物店のお客さんだった知人であり、この場所を気に入って職場として選んだ経緯があります。古渡さんはこの点について、特に感謝の意を示しています。
「スタッフたちは元々お客さんとしてこの場所に来ていたので、この場所が好きでリラックスして働けるという価値を感じてくれています。お互いの趣味や興味が合うこともあり、一緒に働けることによって創造的な環境がより一層育まれています。」
古渡さんはさらに、アトリエが「こんな素敵な場所があるんだ」と感じてもらえるような、地域の人々にとっても誇れる場所となることを目指しています。「十てつ」というブランドに憧れを持つ人々が増えることで、この場所、この地域が誇れる場所となることを願っています。

持続可能な創造への展望
古渡さんは、持続可能な事業展開を目指しています。十てつのものづくりの場として、地域の若者にとって魅力的な働き場になることを目標にしています。
「私たちのものづくりは個人の工房に留まりません。茨城の地で、楽しみながら働ける環境を創り、地域の文化と経済を活性化することに貢献したいと考えています。」と古渡さんは語ります。この地域から新たな文化が生まれ、それが全国、さらには世界に広がることを夢見ています。
古渡さんのような創造者の存在は、これから創業を考える人々にとって大きな刺激となり、彼の今後のものづくりや場づくりの展開が期待されています。
「これからも私たちの活動を通じて、多くの人々にインスピレーションを与えられるよう努めていきます。」

Credit
Written by Ryu Kanari (MATOMA LLC)
Interviewer Tomoko Kawano
Photographed by Ryu Kanari (MATOMA LLC)
Links
Website|https://to-tetsu.com/
Instagram|https://www.instagram.com/the.nature_hotel/