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出来たての和菓子をお茶と一緒にゆったり味わえる場所があります。
茨城県・水戸市にある「菓匠にいつま hanare」。オープンから5年を迎えるこの空間は、店主・新妻優友さんが「自分の世界観を表現したい」という思いから生まれました。

自分の道を探して

 

「高校のとき、とにかく東京に行きたくて。大学は嫌だったので専門学校なら行けると思いました。たまたま家が和菓子屋だったので、お菓子の専門学校なら両親も納得するだろうと」

そうして、世田谷にある日本菓子専門学校を選択。2年間、和菓子・洋菓子・パンを学びました。

「卒業を前に進路を探していたとき、ふと目に留まったのが京橋の老舗「桃六」の求人でした。」

桃六は創業150年を超える老舗。本当に厳しい職場でしたが、そこで初めて「和菓子屋で修業する」ということを実感したといいます。
3年半の修業を経て、新妻さんは水戸に戻る決断をします。
「祖父がまだ元気で仕事できるうちに、少しでも私に教えたいという思いがあって、当初の予定より早めに帰ることにしました」

 

 

空間づくりへの憧れ

 

東京時代、新妻さんは和菓子以外にもさまざまな刺激を受けました。

学生時代にアルバイトをしていた中目黒の「1LDK」では、アパレルとカフェを融合させたライフスタイル提案に触れます。

当時は、南貴之さんが手掛ける1LDKの空間や、緒方慎一郎さんによるHIGASHIYA、BLOOM&BRANCH AOYAMAなどからも強い影響を受けました。

「南さんが作る空間は当時から好きで、今でもかっこいいです。緒方さんといえば“茶”のイメージが強いけれど、BLOOM&BRANCH AOYAMAはコーヒーがかっこよく出てくるお店で、そこからも空間づくりに影響を受けたかもしれないですね」

こうした経験が、後にhanareを構想する土台になっていきました。

 

 

 

hanareが生まれた背景

 

「その場で和菓子が食べられて、お茶が飲める空間をつくりたいと思ったのは、水戸に戻ってきてからなんです」と新妻さんは語ります。

「都内にはコーヒー屋さんやケーキ屋さんに併設されたカフェはたくさんありましたが、和菓子屋さんでその場で和菓子を食べられる空間は本当に少なかった。地方ではなおさら。水戸に帰ってきたときにそういうお店が1軒もなかったので、『じゃあ自分がやろうかな』と思ったんです。」

一方で、本店との関係も大切に考えていました。

「本店は50年、60年と続いていて、すでに世界観ができあがっていた。わざわざ崩す必要もなかったし、自分が帰ってきて一新する必要はないと感じたんです」
だからこそ、hanareは本店のそばに別の空間として開くことにしました。
やがては本店も受け継いでいくと考えていた新妻さんは、両方に目が届くようにと、本店から歩いて行ける距離にある敷地を選びました。

 

 

 

“和菓子屋すぎない”空間の塩梅

 

「hanareの内装は、ザ・和菓子屋になりすぎず、“和”の要素も外さない。そのちょうどいい塩梅を狙ったつもりです。コテコテの和菓子屋でもないし、おしゃれなカフェでもない。その曖昧で危うい感じを面白がってもらえているのかなと思います」

店内には、クラシックな羊羹やどら焼きのほか、スパイスを効かせた菓子も並びます。日本茶も煎茶や紅茶にとどまらず、ブレンド茶など多様な提案がされています。

新妻さん自身「さらっとやっているように思っていましたが、質問されると意外と考えてやっているんだなと気づきますね」と言います。

包装への思い入れも深いものがあります。
「包装や箱は、自分の表現が一番ストレートに出る部分。だから大事にしていきたい」と新妻さんは語ります。

自分が『この装いで贈りたい』と思えるものでなければ作らない。これからも、細やかな部分にまでこだわっていきたいと考えています。

 

 

 

和菓子が結ぶ、人とのつながり

 

オープンから5年。
新妻さんがやりがいを感じるのは人と人がつながっていく場面に出会えたときです。

「自分がいいなと思った和菓子や日本茶を提案して、お客様が反応してくれることはやりがいになります。その回数が増えるほど心は満たされるかもしれないですね」

やりがいは、お客様との直接の関係だけではありません。

「お客さん同士がつながると『ああ、誰かの役に立っているんだな』と思います。このお店をきっかけに人と人がつながる場面を見ると、『よかったな』と思いますね」

hanareはただ菓子を売る場所ではなく、人の関係を紡ぐ場としても育ってきました。

 

 

 

まちにひらかれた店

 

「地方のお店はどうしても都内のお店に憧れがあると思うんです。でも、自分は『都内からわざわざ来てもらえる店にしたい』という気持ちが強かったんです。

だからこそ、“都内では買えないもの、体験できないこと”を提案したいと考えていました。

お店では地元の作家による茶器を積極的に使い、東京から訪れるお客さんに笠間や益子のギャラリーを紹介するなど、水戸から外へとつながっていく流れも自然と生まれてきました。

「もともと水戸にいる人が、誰かを水戸に呼ぶときに“ちょっと気が利いた和菓子屋があるんだよ”って自慢してもらえるようなお店になれたらいいなと思います」
そんな思いが、日々の営みを支えています。

 

 

 

家族という、いちばんの支え

 

「暮らしに欠かせないものは、家族です」

オープンと同時に子育ても始まり、慣れないことばかりに直面しました。右も左も分からないお店の経営に向き合うことになり、大変さを感じることもあったといいます。

「最初は、子育てがなかったらもっと仕事にベクトルを向けられたんじゃないかと思ったこともありました。でも、5年経った今は、家族がいなかったらここまで頑張れなかったと思います。」

1人なら挫けていたかもしれない日々も、家族がいたからこそ乗り越えられた。
その支えが、hanareのあたたかな空気をつくり出しています。

 

 

これからの展望

 

次なる挑戦として思い描いているのがカステラです。

「ずっとやりたかったもののひとつがカステラ。オーブンを導入し、美味しいカステラを作りたい。お土産になるお菓子を増やしたいんです」

「美味しいカステラを焼けるようになったら、hanareがもっと楽しくなると思う」と語る新妻さん。

これからも日常を大切にしながら、新しい提案を続けていきます。

 

 

 

「自分の世界を表現したい」という思いから生まれた、にいつまhanare。
そこには、和菓子を介して人と人がつながる喜びがあり、日常を支える家族の存在があります。
これからも和菓子と空間を通じて、新しい物語が紡がれていくことでしょう。